弓の性質についての先行研究
弓の底と言う言葉を皆さんはご存じですか?和弓を引いていくと急に硬いと感じる所があり、収まった感じがするというもの。これについて皆さんはどう考えているでしょうか。今回、弓の底について詳しく測定し、考えてみました。
どうも、k125と申します。
今回は「弓力と引き尺の関係」と題した記事ですが、これについては過去に浦上栄先生が言及しています。
[1]紅葉重ね・離れの時期・弓具の見方と扱い方 浦上栄 p.79~81
スマホの画面では読みづらいかと思いますので簡単にまとめますと、福原教授の竹弓を用いた実験により得られた「矢束(引き尺)と張力(弓力)の関係性」に対する浦上先生の考察です。その要点は
①ある点を境に得られる弓力の変化の割合は減少する。
②その点は一番効果がある点であり、いわゆる相応の矢束に相当する。
であります。
そこで私は「新素材の弓ではどうだろう、弓力や弓の種類によってもその点は異なるのではないか」と疑問に感じ以下の実験を行いました。
実験:弓力による違い、弓の長さによる違いを調べる。
弓力の異なる同一銘の弓、直心Ⅱカーボンの二寸伸びを3張、並寸を2張用いて、二寸伸びは10点、並寸は9点における弓力を測定した。結果を図1に示す。
図1. 直心ⅡCの弓力と引き尺の関係
ここで先行研究により得られたグラフを図2とする。
図2. 福原教授の実験により得られたグラフ(?) 出典:[1]
(よく見ると縦軸とプロットされている値が違いますが誤植か何かなのでしょうか…)
私も図2のような結果が出ると思い実験をしていたが図1に明らかなように予想に反して弓力変化の割合は減少しなかったという結果が得られた。残念ながら本実験はお世辞にも正確なデータを取れたとは言えない。
別種の弓で検証
そこで他の銘の弓についてもデータを取り図3に示す。
図3. 弓禅及び粋の弓力と引き尺の関係
図3には図1と同様の傾向、すなわちある点を境に変化の割合が増加、という予想や図2とは正反対の結果が見て取れる。本実験では変化が生じる点が出ると予想した80~100 cmの範囲においても2.5 cm刻みでしか測定していないため明確な変化点を求めることはできなかった。しかしおおよその位置は浦上栄先生の考察と合致しているようである。一方、弓力の変化の割合は弓力が強く、弓が短いほど大きいことがわかる。
アーチェリーではスタッキングポイントと言われている
ここで少し余談になる, 興味がある方はこちらをどうぞ。https://www.a-rchery.com/bow03.htm
アーチェリーの世界では図1~3のようなグラフのことをf-x曲線と呼ぶようである。このサイトの1枚目の画像を図4として引用させて頂く。
図4. 洋弓のf-x曲線
図4にスタッキングポイントと示される点は、アーチェリーの世界においてフルドロー近くで極端に弓が硬くなる点のことを意味する。弓道の世界では弓の底という言葉が使われているが本記事では両者を同じ意味を示す言葉として見ていいだろう。
和弓でのスタッキングポイント
さて、改めて図4のスタッキングポイント付近を良く見てほしい。図1,3のグラフの終盤の傾向と似てはいないだろうか。洋弓と和弓の違いはあるにせよ、共に弓の底を感じるということは硬さの急な増加が生じているということであろう。ここでいう硬さとは単位長さあたりの移動(引き)に要する力の大きさ(グラフで言う接線の傾き)であり、硬さが増加するとは、接線の傾きが増加するという意味である。簡単に言えば、今までと同じ分だけ引こうとしてもより多くの力が必要になるため硬く感じるということである。
また、経験則からも明らかなように弓の底を超えて引くと成りの変化や故障が起きることが多くなる。これは弓が弾性変形から塑性変形に移行したためであると一般的には考えられると思うが和弓にも適用できるという根拠はない。この現象は竹弓で顕著であり、新素材弓は極めて丈夫なためなかなか故障することは無いと思うが、どちらにせよ弓の底を超えて引くことは弓の寿命を縮めることになるのは間違いないだろう。
以上より弓の底が存在しそれが硬さの増加によるものだと考えると、先行研究の結果は否定され、本研究結果が支持されることになる。
また、和弓におけるスタッキングポイントに経験則を採用して二寸伸びは90 cm、並寸は85 cmとし、図4のストリングハイトとスタッキングポイントを通る線に該当する線を図1に加えたものを図5として示す。なお、弓把は15 cmとした。本来ならば正確に測定しスタッキングポイントを見つけるべきであろうが測定精度も悪く困難なためご了承願いたい。
図5. 雑ですがお許しを
測定精度が悪く点線を下回っている測定値はあるが、すべての弓においてスタッキングポイントを超えた範囲で測定値が点線よりも上回るという傾向が確認できる。一方、引き尺が30 cmの点においてはすべての弓で測定値が点線を上回っている。そこで和弓のf-x曲線の全体像を把握するために二寸伸びの練心を用いて更に細かく測定し、その結果を図6に示す。
図6. 練心二寸伸びのf-x曲線
今回もスタッキングポイントは90 cmの点とした。図4、図6より和弓も洋弓と同様のf-x曲線を示すことが判明した。これは木材の応力ひずみ線図と同様の傾向であるがグラス弓と言えどその80数%は木材であることから納得できよう。
まとめ
ここで先行研究について考察する。
①ある点を境に得られる弓力の変化の割合は減少する。
②その点は一番効果がある点であり、いわゆる相応の矢束に相当する。
①に関しては全く逆で、ある点を境に変化の割合は増加する。
②に関して、一番効果があるという点も著者の定義からすると誤りであるが、故障の危険が急激に増加する境であることを考えると後半の「相応の矢束に相当する」の部分は正しいと考えられる。
また、浦上先生の計測ではおそらくニベ弓を前提として行われていたと推測する。それゆえ、引き尺の増加にしたがって内竹がズレるニベ弓においては多少はスタッキングポイントの傾きは減ってくると思われる。
最後に
いかがでしたでしょうか。スタッキングポイントのグラフはa-rchery.comの運営者様より許可を頂きました。重ねてお礼申し上げます。本記事は何分専門家でもなく一般人であるk125の考えをまとめただけですので、間違いや至らぬ点があれば是非ご指導ください。
また、裏反りがある竹弓のf-x曲線については新たに実験する必要があると思います。ただ、私の手元に実験に使用してもよい竹弓は無い上に精度も取れないので大学の研究室等にお任せしようと思います。
https://www.a-rchery.com/ac01.html 様のサイトを拝見して思ったのですがアーチェリーの世界では図4のaの部分の面積(弓に蓄えられるエネルギー)を増やすことに苦心されているみたいですね。エネルギーを増やすには単純に弓力を上げるだけではなく構造も非常に大切であるということがよくわかります。コンパウンドボウ、恐るべしですね。
また、使い勝手のために弓の底(スタッキングポイント)を少し過ぎたあたりで離れ(リリース)をする方が弓道の世界にもいると思います。どちらが良いという話ではなく、射手自身が判断する問題であると思いますが竹弓を使う際には一考が必要だと私は感じます。使い勝手とはトレードオフの関係になるでしょう。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、他にも今日から使える有用情報がたくさんありますので是非見ていってください。
高校より正面打起しで弓道を初め現在日置流印西派を勉強中
時間の合間を縫って弓道に関する様々な文献や論文を読んでいます。
弓射を物理現象と捉え、高校生にもわかりやすい記事を書いていくつもりです。
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