これは全三章のうちの二章です、まだ読んでいない場合は一章から読み進めてください。
それでは続いて上達についての総論のとして全体像の説明をしていきます。一章と同じくKouがお送りします。
この章では上達について大まかに見通しをつけていきたいと思います。上達とは何か、という原点からどのようにしてスペシャリストに至るのかまで議論していきます。
また、指導について求められることも書いておきます。
上達すると何が起こるのか
上達とは何を指すのかを挙げてみます。
1.できないことが出来るようになる
2.できることが無意識で出来るようになる
3.どうやったらより最短距離で上手くなるか工夫できる
4.見える景色が変わった実感を得る
上達することで①②は当たり前だと思いがちですが、①と②も重要で、1つ出来ることが増えると頭の中でやらなければならないことが一つ減らせます。
そうすると別の意識を取り入れる、他の運動と連合させることができ、それによってまた新たな成長が生み出されます。
③や④については段階が進むことによってが同時期にグッと分かるようになってくるものです。
つまり自分のいる場所が大きく変わってくるということ、そして今自分が立っている場所が鮮明になってきます。
それによって自分の外を見る目が変わり、いろいろな副次的恩恵が得られるでしょう。何かの分野で秀でた人は特別な雰囲気を持っていることが多いのはこのためです。
他者の失敗に対して寛容になる。上達による情緒的経験に富んだ人格形成。
自ら挑戦し失敗し挫折してきた人間はその気持ちが深く理解できるようになるということです。
挑戦することが、どれだけ尊いことか良く知っているのためでしょう。
また、上達できた喜びも人一倍分かち合えるようにもなるはずです。
上達を通して、あらゆる分野を通して私たちは自己を形成するということになります。
根性主義とは違った自己肯定感、自己効力感を持っている。自己立場の把握。
二度とやりたくないと思うような挑戦を積み重ねて試行錯誤してきたという事実がそうさせます。
自分の力でやりきったその経験で人生の厚みは決まってくるとも言えるでしょう。
ただ量をこなしたり人に言われたノルマをこなす経験とは違う、一種の気品と余裕が出てくるようになるものです。
どんな状況でも「集中して挑戦」と自分に言い聞かせられ、追い込まれた状況でも「これくらいならできる」そう思える人の強さを表しています。
相手の立場になって考えられる芯の通った価値観を持つ人間
自分の立場が明確になったところで、相手の立場がより見えてくるようになるためです。
自分が秀でている分野に限らず、ある観点から意見が述べられるようになるでしょう。
自分自身の立場がフラついているうちは視点が定まらず、物事を一定に見ることができません。
自分のことを流されやすい人や影響されやすい人だと思っている人は脱却したいならまず自分のことをやってみるといいということです。
自分より未熟な人間から学ぶことができる
当然、自分を相対化できた人はあらゆる事象から鋭く学ぶことができるはずです。
対象が未熟でも、分野が違っても、いろんな面で物事を吸収できる柔軟さと謙虚さを手に入れているに違いないでしょう。
三つの期間の把握
上達は3つの段階に分けられ、基本的にはこの三つの時期が長い期間の中で経験されて行きます。
①愛好期
②向上期
③自己実現期
この3つで、時期によって必要な指導、声掛けはそれぞれで違っています。
①愛好期
「なによりもまず意欲と楽しみが形成される期間」だと考えればよいでしょう。とにかく遊ぶこと、それを通して人と関わることがとにかく楽しいと思う時期です。
私の場合、自分が遠くのものに作用することができる、一本でも中ればそれだけで楽しくそれだけで何時間でも練習できたというものでした。
ピタゴラスイッチで遠くのものを動かした時のような感覚です。
中れば楽しいしこのまま練習すれば中るという楽観的な思考をしていました。
もちろんそんな物は人それぞれでいいと思います。何かをしたいと思う動機に純も不純もありませんから。
ここでは、指導者が「楽しくなれる仕掛け」をするよう心掛けることが大切です。気を付けることは以下の2つ
ⅰ専門的な知識を教え込む必要は全くないと考えること。何かを教えてあげようという世話焼きは捨ててしまっていいー成果への圧力を感じることなく、とにかく夢中になることが重要な時期なのだ。
そこからいずれ自発的な意志を生み出していけばよい。
ⅱ結果を評価しないー「ああしなさい」「こうしなきゃダメだ」「できるようにならないぞ」とプレッシャーを与えられてしまっては意欲をそがれてしまう。
とにかく、指導者は褒めて楽しさに共感する。ただ何かをすることだけの楽しさを伝えることを優先する。
「ワクワクする」環境を作ることが最重要になる段階です。
この段階において周りが褒めることは大きな愛好期成功要因の一つになってきます。
少し脱線すると、もしこの三期のうちで才能に該当するものとして愛好期の「楽しいと思えること」こそが才能だろうと反論されるかもしれません。
ですがそれにも周囲のサポートが関係しています。
IQが高かったり、他の分野で練習を積んだ経験が活きて初心者のうちの飲み込みが早い程度の事はよくあります。
そのときに周囲から褒められ、尊敬されることによってそれがモチベーションとなり、楽しくなるわけです。
ですがそうでなくても結果では無く過程を評価することによって誰でもモチベーションを保てる能力を手に入れることが出来ます。
東京大学の入学者は4月生まれが多いことで有名です。それは同学年の中で最も年長者であり、大人びていることにより褒められて育ったからです。
その褒められて育った人たちの中で最も成績が良いのはIQの高さではなく完全に練習時間の差であることは前章で確認しました。
愛好期において褒める側の人間の理解が一歩進むだけで、可能性は満ち溢れてくるわけです。
自分の愛好期を成功させたければ周りに「結果では無く過程を褒めて」と口うるさく言えばいいのです。
②向上期
ここは「知恵と仕掛け」が最も重要になる期間です。まさに「練習中心主義」の根拠となる部分でしょう。
愛好期でもっと「うまくなりたい。」そう思った時からこの時期が始まると言っていいです。
もちろんそれには人それぞれ理由があっていいはずです、何度も言いますが上達したいと思う動機に純も不純もありませんから。
この時期が早いほうが上達は進みますがいつこの時期に入るかどうかもまた様々で良いかと思います。
向上期は徹底した基礎練習が長時間必要なため、最も苦しい時期でもあるかもしれません。
それでもここが「質の高い練習」が出来上がってくる重要な時期です。自分で「できた、少しでも上達した。」という達成感を積み上げることが必要になってきます。
そのために必要な「知恵と仕掛け」は最終章で確認していくことにしたいと思います。
③自己実現期
基礎の習得を終え、自分の個性を手に入れ始める期間となります。
さきほど述べた上達により手に入れられるものが次から次へと舞い込んできます。
物事が好転していく時期ではありますがここで終わりでは無く、ここから始まるとも言えましょう。基礎を自分に入れ込んでいたところから、自分が創造する側に変化していきます。
あらゆる状況に対処する手立てができますし、この時期に至るともはや指導者と言っていいと思います。
特別な指導が必要というよりかはアイデアを出し合ったりアドバイスを検討するようになります
指導をする、指導を受ける
少し指導についても触れたいと思います。
時期に合った適切な指導がなければどんなに素晴らしい能力も、根を張り花を咲かせることはありません。
それは今日のあらゆる芸当が先人達の努力の結晶として存在しているからです。
それが分かっていても指導の食い違いに悩んでしまうことはよくあります。
それはここで説明した「三時期」に食い違いがあると指導者と被指導者での衝突が起きてしまうのもその一因です。
しかし指導者のほうが権力が強く、被指導者を言いなりにしてしまうケースも多いです。
指導者は自分の熟練の断片を取り出して、後輩とのギャップにもやもやしてしまい、それをなんとかしようとあれこれと別時期の知識をあげて改善させようとしてしまいがちです。
それが工夫の機会や楽しむことそのものを取り上げてしまうことになり、どの時期にあっても上達から遠ざかってしまいます。
また、逆に指導される側からしても待ったところで向こうから最適な指導者がやって来ることはありません。
逆に同時期にいろいろな人から指導されることもあるかと思います。だからこそこれからは自分で言葉を選び取って工夫しなければならないと思います。
掛けられた言葉は、(今の時期にはそぐわないな)と思ったら気持ちだけ受け取っておいてその助言は語録として仕舞っておいても良いと思います。
相手もあなたの上達のことを思ってくれているので結果的に良ければ問題ありません。
時期とマッチしない指導は鵜呑みにしてしまうとノイズになってしまうのです。
これから訪れる時代
弓の扱いで言えば、進化の過程のおかげで「弓で獲物を捕ることが出来る遺伝子」;一般的に言う「才能」が色濃く残っている筈です。
それがこれまでは誤った迷信、風潮によって才能の開花が阻害され、才能は水泡となり、偶然上達の条件がそろった人間のみが開花してきました。
その偶然を我々は才能と誤解して呼んでいましたがこれからはそうではありません。時代は変わりました。
全ての人が能力を開花させられる新時代になったと言えるでしょう。
これからの能力を開花させる指導とは全段階で
①知識や技術を一方的に教え込むものではない。何かを教えてあげようという考え方は今日から捨てる
②悪い点を指摘して批判したり評価するものではない(何か出来ないことがあればやり方を変えて成長を促す。)
③結果ではなく挑戦の過程を評価していく
④決まった1つの理想の形を追い求めさせない(命令しない、傾聴する。場合によっては選択肢を与える。)
⑤成長の過程を型で決めつけない(過程も目標も当然多様であっていい。)
といった前提を乗り越えた先にあります。
指導は被指導者のためであるのは絶対です。大きく引いて大きく離せ、などという画一的でためにならないアドバイスはやめましょう。
被指導者への思いやりをはき違えないように注意したいものです。
弓道においてもそれぞれの価値を追い求めていくことが尊いことに違いありません。
指導者は傾聴と多様性への寛容を求められる時代になってきています。
また、これを念頭に置く事によって次章でのコーチの役割が活きてくるようになります。
以上で、上達の全体像はつかめてきたかと思います。「上達することはどういうことなのか、どういう価値があるのか。自分がどの景色を見たいか。」
射法の本や記事を読むときもこういったスタンスを持った上で読んで頂きたいと思います。
最終章では向上期で重要になる「知恵と仕掛け」について述べていきます。
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また、他にも今日から使える有用情報がたくさんありますので是非見ていってください。
参考文献
「9things successful people do diffelently」 Heidi Grant Helvorson
「PEAK:」 Anders Ericsson
「Practice Perfect」 Doug lemov
上達の原則 北村勝朗
上達の法則 岡本浩一
アフィリエイト等広告無し無料サイト「弓道大学」編集長
弓道の理解し辛い部分を原理原則から演繹し考察します。
全国規模大会で団体優勝の経験もさせてもらいました。